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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)12374号 判決

大阪市北区西天満三丁目五番一四号

(商業登記簿上の本店所在地・大阪市西区新町一丁目一〇番二号)

原告

攝陽工業株式会社

右代表者代表取締役

吉谷巌

右訴訟代理人弁護士

深井潔

右輔佐人弁理士

辻本一義

兵庫県尼崎市南塚口町四丁目四番五七号

被告

株式会社ニチプレ

右代表者代表取締役

守内満

右訴訟代理人弁護士

和田徹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙ト号物件目録ないしヲ号物件目録記載の各物件(以下、順に「ト号物件」「チ号物件」「リ号物件」「ヌ号物件」「ル号物件」「ヲ号物件」といい、総称するときは「被告物件」という)を製造し、販売し、又は販売のため展示してはならない。

二  仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件は、後記実用新案権を有する原告が、被告の製造、販売している被告物件は右実用新案権にかかる考案の技術的範囲に属すると主張して、その製造販売及び販売のための展示の差止めを求める事案である。

一  原告の有する実用新案権

1  原告は、左記の実用新案権を有している(争いがない。以下「本件実用新案権」といい、その登録実用新案を「本件考案」という)。

(一) 登録番号 第一九九九九九五号

(二) 考案の名称 屋根構造

(三) 出願日 昭和五九年六月一九日(実願昭五九-九二三〇〇号)

(四) 出願公告日 平成五年三月九日(実公平五-九三六五号)

(五) 登録日 平成五年一二月二二日

(六) 実用新案登録請求の範囲

「H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、前記桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し、さらに屋根材の一端を前記雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部に取り付けると共にこの屋根材を前記長溝の上方に配したことを特徴とする屋根構造。」(別添実用新案公報〔以下「本件公報」という〕参照)

2  本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)の記載を参酌すれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、次の構成要件に分説するのが相当である。

A H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、前記桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し、

B 更に屋根材の一端を前記雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部に取り付けるとともに

C この屋根材を前記長溝の上方に配した

D ことを特徴とする屋根構造。

3  本件考案の作用効果について、本件明細書には、本件「考案の屋根構造は、桁の骨材としてH形鋼を使用し、その桁の下フランジ内面に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、桁に長溝を形成したため、専用の雨樋が不要となり、構築価格の低廉化をはかることができ、また長溝は桁の下端内面に形成され外観には現出しないので、軒先をシンプルなものにして意匠的にも優れたものとなり、更に雨樋代用枠の支持体の傾斜角度を適宜の角度にすることにより、各種の屋根に実施することができるなど、優れた効果を有する。」(本件公報3欄8行~18行)との記載がある。

二  被告物件の構成

被告が製造し、販売し、販売のため展示している被告物件がそれぞれ別紙ト号物件目録ないしヲ号物件目録記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

三  争点及び争点についての当事者の主張

本件の争点は、被告物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かであり、より具体的には、被告物件は、本件考案の構成要件A、Bにいう「雨樋代用枠」を具備するか否か、また、本件考案の構成要件B「屋根材の一端を前記雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部に取り付ける」を具備するか否かであって、いうまでもなく、原告は、後記1のとおりいずれも具備するものであると主張し、これに対し、被告は、後記2のとおりいずれの点も否定して被告物件は本件考案の技術的範囲に属しないと主張するものである。

なお、被告物件が本件考案の構成要件C、Dを具備するとの点については被告において明らかに争わない。

1  原告の主張

(一) 本件考案の構成要件A、Bにいう「雨樋代用枠」は、屋根材から流れ落ちる雨を受ける溝状のもので、雨樋と全く同じ働きをするものであり、本件明細書の記載においても、雨を受けるものという意味で用いられているのであるから、単なる「雨樋」と同義語である。

すなわち、本件明細書に「従来、これらの各種構築物の屋根構造では、軒先に雨樋を取り付けている。」(本件公報1欄12行~13行)との記載があるように、本件明細書における「雨樋」は、従来から一般的に軒先に取り付けられていたものを指しているのであり、これを、本件考案においては軒先にはH形鋼が現れ、その内側に雨樋を設けた構造にしたことにより、従来の一般的な「雨樋」とは異なる点があるため「雨樋代用枠」と表現したものにすぎない。

また、本件明細書には、本件考案の「目的とするところは、桁の骨材としてH形鋼を使用し、その桁のフランジ内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、桁に長溝を形成することにより、専用の雨樋を不要として、構築価格の低廉化及び構築物の外観の向上をはかった屋根構造を提供することにある。」(本件公報1欄18行~23行)との記載があるところ、右にいう「桁に長溝を形成することにより、専用の雨樋を不要として」とは、従来軒先に取り付けられていた「通常の雨樋」すなわち雨樋本体(雨水を流す樋部分)とこれを軒先に取り付けるための湾曲させた取付金具からなる軒先専用の雨樋を取り付ける必要がない、との意味である。本件考案の効果についての前記一3の記載にいう「桁に長溝を形成したため、専用の雨樋が不要となり、」も同じ意味を表したものである。詳述すれば、従来は、湾曲させた金具を軒先の下側において軒先から突出させて適宜間隔に取り付け、この金具に雨樋本体を固定していたから、雨樋本体の固定のために湾曲金具を取り付け、この金具に雨樋本体を取り付けなければならず、更に雨樋自体と雨の重量に耐える強度の大きな金具が必要であったなど、雨樋の取付けに多くの手数と費用がかかる状況であったのに対し、本件考案では、桁に雨樋代用枠を設置するため、雨樋本体を取り付けるために従来使用していた金具が不要であり、この金具自体の費用と、金具を軒先下側に突出させて取り付け、金具に雨樋本体を取り付けるための手間が不要になったのである。

(二) 本件考案にいう雨樋代用枠と支持部は、それらが一体の構造のものに限定されておらず、本件考案の構成要件Bにおいて「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」としたのは、屋根材を長溝の上方に配するために、支持部を設ける位置を、雨樋代用枠の側面上端の延長線上とする趣旨であることが明らかである。

被告は、右「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」は、雨樋代用枠と屋根材を取り付ける支持部とが一体であることを意味するものである旨主張する。

しかし、本件明細書には雨樋代用枠と屋根材を取り付ける支持部とが一体であるとする説明は存しない。特許出願、実用新案登録出願にかかる明細書の一般的な記載方法や解釈からして、「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」との表現は、雨樋代用枠と支持部の設け方としてこれらが一体のものも別体のものも含む趣旨である。雨樋代用枠と支持部が一体でなければならない場合には「一体」と、別体でなければならない場合には「別体」と積極的に限定すべきであり、別体でも一体でもよければその限定を付さないのである。

また、被告は、本件考案の出願審査の過程において原告が特許庁に提出した書面中の記載を引用してその主張の根拠とするが、原告は、いずれの書面においても雨樋代用枠と支持部の関係が一体であると主張したことがない。考案の出願審査の過程において拒絶理由通知を受けた際、実用新案登録請求の範囲の記載を一定の限度で拡張することも減縮することも可能であるから、出願審査の過程における実用新案登録請求の範囲の記載が、最終的に実用新案登録を受けた際の実用新案登録請求の範囲の記載より狭い場合であっても、より狭い範囲の記載となっている出願審査の過程における実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて技術的範囲を定めなければならないとする根拠はなく、最終的に実用新案登録を受けた明細書の内容に基づいて考案の技術的範囲を定めるべきものである。

(三) 被告物件は、いずれも本件考案の構成要件の全てを具備するとともにその作用効果と同じ作用効果を奏するものであるから、本件考案の技術的範囲に属するものである。

被告は、被告物件においては雨樋9と屋根材6を支持する取付材9'が別部材であるから本件考案の構成要件Bを具備しない旨主張するが、前記(二)のとおり、本件考案にいう雨樋代用枠と支持部は一体の構造のものに限定されないから、これらが別部材のものも構成要件Bを具備するものである。

仮に本件考案にいう雨樋代用枠と支持部が一体の構造のものに限定されるとしても、被告物件における雨樋9と取付材9'は、これを組み立てる前は別部材であるものの、組み立てた後の使用状態にあっては、H形鋼の桁部分で接合し離脱不能に強固に固着させられていて完全に一体的に結合した状態になっているものであり、構造面でも効果の面でも本件考案における雨樋代用枠と支持部の関係と同じであると考えられる。

被告物件は、雨樋9の側面上端と取付材9'の間に僅かな間隙が存在するが、取付材9'は重量の大きな屋根材6を受けているのであり、この屋根材6の重量のために細い板形状からなる取付材9'は容易に変形し、雨樋9の端部と接合して一体的に構成したのと同様の構造になることが明らかである。被告物件において雨樋9と取付材9'の間に僅かな間隙を形成しなければならないという技術的理由はなく、このように僅かな間隙を形成した設計変更は、単に本件考案の実施例と異なる実施態様を得るための無意味なものであり、本件考案から逃れようとすることのみを目的としたものにすぎない。

そして、被告物件においては、取付材9'は雨樋9の側面上端に近接した位置で、かつ、その延長線上に存在するのであり、更に屋根材6を長溝11の上方に配する構造にしているため、右間隙にもかかわらず、被告物件は、本件考案の構成要件A、B、Cを具備する。

また、被告は、被告物件は雨樋9及び取付材9'の各幅がフランジの片幅よりも幅広であり、しかも取付材9'が長手方向に短幅であり雨樋全体を覆っていない点において本件考案と異なる旨主張するが、これらの点は、本件考案の構成要件と関係のない事項である。

作用効果についても、被告物件は、従来のように雨樋が軒先に設けられているのに比べて、取付け作業が容易で廉価に提供できるとともに、外側から雨樋部分が見えないから軒先をシンプルなものにできるという、本件考案と同じ作用効果をそのまま奏するものである。被告が被告物件の奏する作用効果として主張する〈1〉ないし〈3〉の点は、本件考案の作用効果と対応するものではなく、仮に被告物件がそのような作用効果を奏するとしても、それは本件とは関係のない実施態様としての被告物件の作用効果であり、それが故に被告物件が本件考案の作用効果を奏しないということにはならない。

2  被告の主張

(一) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、単なる「雨樋」ではなく、ことさら「雨樋代用枠」という表現を用いた上で、「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」という表現をしているのであるから、文理上、屋根材を取り付ける支持部が雨樋代用枠に設けられること、すなわち雨樋代用枠と屋根材とを取り付ける支持部とが一体のものであることは明らかであり、仮に両者が同一兼用部材であることに限定されないとしても、支持部が雨樋代用枠の側面上端部に溶接その他の方法により固着され機能的に一体化される(同一兼用部材を用いる場合と機能的に同一である)場合に限定されることは明らかである。原告は、本件明細書において積極的に「一体」との文言を用いていないから「一体」である場合に限定されないと主張するようであるが、失当というほかない。

また、本件明細書によれば、本件考案の作用効果は、「桁の骨材としてH形鋼を使用し、その桁のフランジ内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、桁に長溝を形成することにより、専用の雨樋を不要として、構築価格の低廉化及び構築物の外観の向上をはかった屋根構造を提供することにある」(本件公報1欄18行~23行)のであって、H型鋼の桁の内側に単なる雨樋ではなく「雨樋代用枠」、すなわち「長溝形状の屋根取付材にして、それ自体の形状が形成する長溝が雨樋の代用となるもの」を設置して、専用の雨樋を不要にしたことにまさに本件考案の核心があるのであるから、このことからも、雨樋代用枠が雨樋の機能と屋根取付材の機能とを併せ持つものであること、すなわち雨樋代用枠と支持部とが一体のものであることは明らかというべきである。

(二) 雨樋代用枠と支持部とが一体のものであることが本件考案の核心をなすことは、以下のとおり、本件考案の出願審査の過程をみても明らかである。

(1) 出願当初の実用新案登録請求の範囲(乙二の2)は、「H形鋼の内側下端に適宜の形鋼よりなる支持枠を設置してH形鋼の内側下端に長溝を配し、さらに屋根材の一端を前記支持枠に取り付けたことを特徴とする屋根構造。」というものであった。

(2) 特許庁審査官は、「屋根構造における『H形鋼』、『支持枠』とは何のことか」不明である等の点で不備と認められ、実用新案法五条三項、四項及び五項に規定する要件を満たしていないとして、平成三年八月二日付で拒絶理由通知をしたため(乙三)、原告は、同年九月二六日付手続補正書(乙四の1・2)を提出し、実用新案登録請求の範囲を「I形鋼よりなる梁の下端内面の長手方向に溝形鋼よりなる支持枠を設置して、前記梁の下端内面に長溝を形成し、さらに屋根材の一端を前記支持枠の支持体に取り付けたことを特徴とする屋根構造。」と補正した。

(3) しかし、特許庁審査官は右拒絶理由通知と同じ理由により同年一二月二五日付で拒絶査定をしたため(乙五)、原告は、平成四年二月二八日付で右拒絶査定に対する不服の審判を請求し(乙六)、同年三月二四日付手続補正書(乙七の1・2)を提出し、実用新案登録請求の範囲を「H形鋼よりなる桁の下フランジ内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、前記桁の下フランジ内面に長溝を形成し、さらに屋根材の一端を前記雨樋代用枠の支持体に取り付けたことを特徴とする屋根構造。」と補正した。

(4) 特許庁審査官は、「請求の範囲において、『雨樋代用枠の支持体』とは何のことか不明である」等の点で不備と認められ、実用新案法五条三項、四項及び五項に規定する要件を満たしていないとして、平成四年七月一〇日付で再び拒絶理由通知をしたため(乙九)、原告は、同年九月一六日付手続補正書(乙一一)を提出し、前記一1(六)記載の現在の実用新案登録請求の範囲のとおり補正した。その結果、本件考案は、出願公告され、続いて登録査定を受けた。

以上のとおり、原告は、本件考案の出願から登録査定までの経過を通じて、本件考案における雨樋と屋根材を支える支持体とが一体のものであることを前提として、この一体関係を説明するための実用新案登録請求の範囲の記載の表現を巡って、手続補正を繰り返したものであり、また、一貫して本件考案の作用効果として専用の雨樋が不要となることにより構築価格の低廉化及び構築物の外観の向上を図ることができることを挙げていたものである。

(三) これに対し、被告物件は、雨樋9とは別体で長手方向に短幅の(したがって長溝形状を呈しない)取付材9'の一端をH形鋼に固定し、他の一端に屋根材6を固定してこれを支えるものであり、本件考案の構成要件A、Bにいう「雨樋代用枠」及び構成要件Bを具備しないから、その技術的範囲に含まれないことは明らかである。

原告は、被告物件における雨樋9と取付材9'は、日形鋼の桁部分で接合し離脱不能に強固に固着させられていて完全に一体的に結合した状態になっているとも主張する。しかし、被告物件の構成は、雨樋9と取付材9'とを接合してH形鋼に固着することに限定されてはおらず、また、雨樋9と取付材9'とが同一の螺でH形鋼の桁に重ねて接合されている場合を検討してみても、雨樋9と取付材9'とが一体であるとは到底いえない。なぜなら、両者は別部材であるから物理的にはまさに別体であって、両者が一体であるというためには機能的な一体性を必要とするところ、右の場合は、単に雨樋9と取付材9'とを同一の螺でH形鋼の桁に重ねて接合しているにすぎず、雨樋9は雨水を貯える等の雨樋としての機能のみを、取付材9'は屋根材6を支持しH形鋼に連結するという取付材としての機能のみを、それぞれ別個、独自に果たしているのであって、両者をそれぞれH形鋼の別の箇所に(例えば雨樋9を桁に、取付材9'をフランジ部に)固着した場合と機能的に何ら異なるところがないからである。

(四) また、本件考案は、雨樋代用枠がフランジの内側内面に設置されるのであり、すなわち雨樋代用枠の幅がフランジの片幅と同一であるから、部材兼用による構築価格の低廉化を図る効果及び雨樋が外観に現出しないという効果を奏するのに対し、被告物件は、雨樋9及び取付材9'の各幅がフランジの片幅よりも幅広であり、しかも取付材9'が長手方向に短幅であり、雨樋全体を覆っていないから、右の効果を奏することができず、その代わりに、〈1〉雨樋9と取付材9'が別部材であるから、屋根材6の取付強度が向上する、〈2〉雨樋9の存在が外部から認知されるが、雨樋9と屋根材6との間隙から落ち葉等の除去が可能である、〈3〉雨樋9の幅がフランジの片幅よりも幅広なので、豪雨の際も雨水が雨樋9からあふれるおそれが少ない、などの作用効果を奏するものであり、この点からしても被告物件は、いずれも本件考案の技術的範囲に属しない。

第三  争点に対する判断

一1  本件考案の構成要件A、Bにいう「雨樋代用枠」とはいかなるものであるか、構成要件B「屋根材の一端を前記雨樋代用枠の上端に設けた支持部に取り付ける」がいかなる意味であるかは、密接に関係するので、併せて検討するに、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置し(構成要件A)、屋根材の一端をこの雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部に取り付ける(構成要件B)というのであるところ、およそ構築物の屋根構造である限り、屋根材を支える部材が必要不可欠であることはいうまでもないが、実用新案登録請求の範囲の記載、その他本件明細書の記載をみても、本件考案においては、屋根材を支えるものとしては右の支持部を設けた雨樋代用枠以外には見当たらないこと、本件明細書には、本件考案を実施したフラット型の屋根を有する構築物について「この構築物の基本骨組は、すべてH型鋼を使用して前柱1、1、前桁2、後柱3、3、後桁4、左右桁5、5より構成され、前桁2と後桁4間に屋根材6が取り付けられている。前記H型鋼よりなる前桁2の上フランジ2'の内側内面の長手方向には、Z型鋼よりなる支持枠7がボルト・ナット8で止着され、H型鋼よりなる後桁4の下フランジ4'の内側内面の長手方向には、側面上端に支持部9'を設けた溝型鋼よりなる雨樋代用枠9が溶着、あるいは密閉手段を施してビス止めする等して設置されており、前記屋根材6の前後端がこれら支持枠7、雨樋代用枠9にボルト、ナット10、10により取り付けられている。そのため、前桁2の上端は支持枠7で遮蔽されることになり、後桁4の下端は長溝11が形成され、前記屋根材6がこの長溝11の上方に配されることになる。」との記載があり(本件公報1欄27行~2欄15行)、右実施例の屋根構造部分の拡大断面図(第5図)には、溝型鋼よりなる雨樋代用枠9の一端及び底部をH形鋼よりなる後桁4の下フランジ4'の内側内面に接着して設置し、雨樋代用枠9の他端を延長して直角に折り曲げてその部分を支持部9'とし、この支持部9'に屋根材の一端がボルトナットにより取り付けられているところ及び屋根材の他端がH形鋼よりなる前桁2の上フランジ2'の内側内面にボルトナットで止着された支持枠7にボルトナットにより取り付けられているところが図示され、他の実施例(切妻型又はアーチ型の屋根を有する構築物)の屋根構造部分の拡大断面図(第9、第10図)にも、溝型鋼よりなる雨樋代用枠9の他端の折り曲げの角度が直角に至らない適宜の角度であるほかは、右と同様に支持部9'に屋根材の一端がボルトナットにより取り付けられているところが図示されていることに照らせば、本件考案の構成要件A、Bにいう雨樋代用枠は、屋根材の他端を支える支持枠と同様、屋根材の一端を支える支持枠(屋根材支持枠)として機能するものであるということができる。

そして、従来、自転車置場やバス停留所等の各種構築物の屋根構造では軒先に雨樋を取り付けているが、これらの小型構築物において通常の雨樋を取り付けることは、構築価格の高騰につながるとともに、構築物の外観を損なうという難点があった(本件公報1欄10行~16行)ため、本件考案は、これらの難点を解消したものであり、その目的は「桁の骨材としてH形鋼を使用し、その桁のフランジ内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、桁に長溝を形成することにより、専用の雨樋を不要として、構築価格の低廉化及び構築物の外観の向上をはかった屋根構造を提供することにある」(同欄17行~23行)との目的についての記載及び前記第二の一3記載の作用効果についての記載によれば、本件考案は、雨樋代用枠に屋根材支持枠としての機能を持たせるだけでなく、その部材として、一定の重量の屋根材を支持するに足る各種形鋼のうちの溝形鋼を採用し、これをH形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に設置して桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し(構成要件A)、屋根材の端部をこの長溝の上方に配置すること(構成要件C)により、この溝形鋼によって形成される長溝に雨樋としての機能をも持たせたものであり、すなわち、雨樋代用枠という一つの部材に屋根材支持枠と雨樋の二つの機能を持たせた点に特徴があるということができる。その意味で、雨樋代用枠は、通常の雨樋ではないものの、雨樋の代わりになる屋根材支持枠ということができ、それ故にこそ本件考案が「雨樋代用枠」という用語を使用したものと考えられる。このように、本件考案にいう雨樋代用枠は、屋根材支持枠として機能するものであるから、単なる「雨樋」と同義語であるとする原告の主張は採用できない(単なる雨樋でよければ、溝形鋼のような高価な構造用鋼材を用いる必要はなく、安価な塩化ビニール製で十分である)。

2  そして、本件考案の構成要件Bにいう「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」とは、雨樋代用枠と支持部が一体の構造のものに限定されるか否かであるが、確かに、原告主張のように、本件明細書には雨樋代用枠と屋根材を取り付ける支持部とが一体であるとする説明は存しない。

しかしながら、「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」との記載は、その通常の用法からして、雨樋代用枠の側面上端自体を支持部として形成するか、雨樋代用枠の側面上端に接続して支持部を形成するとの意味に解釈するのが自然である。のみならず、右1説示のとおり、本件考案にいう雨樋代用枠は、単なる雨樋ではなく、屋根材支持枠として機能するものであるから、屋根材を取り付ける支持部は、必ずしも部材として雨樋代用枠と一体のものである必要はないとしても、最低限、支持部に加わる屋根材の荷重が雨樋代用枠に伝わり、その結果雨樋代用枠が屋根材を支える構造になっていること、すなわち、雨樋代用枠と力学的に一体として機能するものであることが必要であるというべきである。かかる解釈は、前記1の本件考案の実施例についての記載及び図面とよく合致するところである。

したがって、本件考案にいう雨樋代用枠と支持部は、同一部材であるか(溝形鋼である雨樋代用枠の側面上端自体をそのまま若しくは加工して支持材としたもの)又は別部材であっても溝型鋼である雨樋代用枠の側面上端に支持部を嵌合、溶接、鋲着、螺着等により固着したものであると解すべきである。そうすると、支持部に加わる屋根材の荷重が雨樋代用枠に伝わらず、その結果雨樋代用枠が屋根材を支える構造になっていない場合は、本件考案の構成要件A、Bにいう「雨樋代用枠」を具備しないだけでなく、構成要件Bをも具備しないということになる。原告は、構成要件Bにおいて「雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部」としたのは、屋根材を長溝の上方に配するために、支持部を設ける位置を、雨樋代用枠の側面上端の延長線上とする趣旨であると主張するが、右主張は、支持部が雨樋代用枠と力学的に一体として機能しない場合を含むことになるから、右説示に照らして到底採用できない。

二  一方、被告物件は、別紙ト号物件目録ないしヲ号物件目録記載のとおり、「(1)H形鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、(2)前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、(3)山形垂木(ト号物件及びヌ号物件。チ号物件及びル号物件では「アーチ型」、リ号物件及びヲ号物件では「水平型」。後記(4)について同じ)からなる屋根材6の両端部(ト号物件、チ号物件、ヌ号物件及びル号物件。リ号物件及びヲ号物件では一端部)を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、(4)この山形垂木からなる屋根材6を一列(ト号物件、チ号物件及びリ号物件。ヌ号物件、ル号物件及びヲ号物件では「二列」)前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。」というものであり、これによれば、屋根材6の両端部(リ号物件及びヲ号物件では一端部)は、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた取付材9'の遊端にそれぞれ固着されるのであって、雨樋9は、桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方にその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着されているのみで、屋根材6を支持しているとは認められず、屋根材支持枠として機能しているものとはいえないから、それ自体は、本件考案にいう雨樋代用枠に当たらないというほかはない。

原告は、被告物件における雨樋9と取付材9'は、これを組み立てる前は別部材であるものの、組み立てた後の使用状態にあっては、H形鋼の桁部分で接合し離脱不能に強固に固着させられていて完全に一体的に結合した状態になっていると主張する。別紙ト号物件目録ないしヲ号物件目録添付の各図面によれば、被告物件においては、雨樋9及び取付材9'は、ともにその始端が重ねられて桁2、4のウェブに片持ち状に同一のボルトナットにより螺着されていることが認められる。しかしながら、前示のとおり、本件考案における支持部は、必ずしも部材として雨樋代用枠と一体のものである必要はないとしても、最低限、支持部に加わる屋根材の荷重が雨樋代用枠に伝わり、その結果雨樋代用枠が屋根材を支える構造になっていること、すなわち、雨樋代用枠と力学的に一体として機能するものであることが必要であるところ、被告物件における取付材9'に加わる屋根材6の荷重が雨樋9に伝わらず(屋根材6の荷重は取付材9'から桁2、4に直接伝わる)、その結果雨樋9が屋根材6を支える構造になっていないこと、すなわち取付材9'が雨樋9と力学的に一体として機能していないことが明らかであるから、雨樋9及び取付材9'は、右のとおりともにその始端が重ねられて桁2、4のウェブに片持ち状に同一のボルトナットにより螺着されているからといって、本件考案にいう「雨樋代用枠」及び構成要件Bを具備することにはならない。

また、原告は、被告物件は雨樋9の側面上端と取付材9'の間に僅かな間隙が存在するが、取付材9'は重量の大きな屋根材6を受けているのであり、この屋根材6の重量のために細い板形状からなる取付材9'は容易に変形し、雨樋9の端部と接合して一体的に構成したのと同様の構造になる旨主張するところ、右主張は、被告物件において、屋根材を取付材に固着すれば、屋根材の重量により必ず取付材が変形し、屋根材が雨樋の側面上端部に突き当たり、結局、屋根材の荷重は溝形鋼の雨樋9によって支持されることになるとの趣旨の主張を含むと解されるが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない。

三  以上のとおり、被告物件は、本件考案にいう「雨樋代用枠」を具備せず、本件考案の支持部に対応する取付材9'は本件考案の雨樋代用枠に対応する雨樋9の側面上端に設けたものともいえないから、本件考案の構成要件A、Bを具備せず、したがって、本件考案の技術的範囲に属しない。

第四  結論

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

ト号物件目録

一 名称

屋根構造

二 構造の説明

(1) H型鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼 よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、

(2) 前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、

(3) 山型垂木からなる屋根材6の両端部を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、

(4) この山型垂木からなる屋根材6を一列前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

三 図面の簡単な説明

第1図は、この屋根構造を実施した構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、組立状態を示す側面図。第3図は、中央部を省略した屋根材の取付部分を示す縦断面図。

符号の説明

1は前柱、2は前桁、2'は下フランジ、3は後柱、4は後桁、4'は下フランジ、5は左右桁、6は山型垂木からなる屋根材、9は雨樋、9'は取付材、11は長溝。

ト号図面

〈省略〉

〈省略〉

チ号物件目録

一 名称

屋根構造

二 構造の説明

(1) H型鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、

(2) 前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、

(3) アーチ型からなる屋根材6の両端部を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、

(4) このアーチ型からなる屋根材6を一列前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

三 図面の簡単な説明

第1図は、この屋根構造を実施した構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、組立状態を示す側面図。第3図は、中央部を省略した屋根材の取付部分を示す縦断面図。

符号の説明

1は前柱、2は前桁、2'は下フランジ、3は後柱、4は後桁、4'は下フランジ、5は左右桁、6はアーチ型からなる屋根材、9は雨樋、9'は取付材、11は長溝。

チ号図面

〈省略〉

〈省略〉

リ号物件目録

一 名称

屋根構造

二 構造の説明

(1) H型鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、

(2) 前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、

(3) 水平型からなる屋根材6の一端部を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、

(4) この水平型からなる屋根材6を一列前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

三 図面の簡単な説明

第1図は、この屋根構造を実施した構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、組立状態を示す側面図。第3図は、中央部を省略した屋根材の取付部分を示す縦断面図。

符号の説明

1は前柱、2は前桁、2'は下フランジ、3は後柱、4は後桁、4'は下フランジ、5は左右桁、6は水平型からなる屋根材、9は雨樋、9'は取付材、11は長溝。

リ号図表

〈省略〉

〈省略〉

ヌ号物件目録

一 名称

屋根構造

二 構造の説明

(1) H型鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、

(2) 前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、

(3) 山型垂木からなる屋根材6の両端部を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、

(4) この山型垂木からなる屋根材6を二列前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

三 図面の簡単な説明

第1図は、この屋根構造を実施した構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、組立状態を示す側面図。第3図は、中央部を省略した屋根材の取付部分を示す縦断面図。

符号の説明

1は前柱、2は前桁、2'は下フランジ、3は後柱、4は後桁、4'は下フランジ、5は左右桁、6は山型垂木からなる屋根材、9は雨樋、9'は取付材、11は長溝。

ヌ号図表

〈省略〉

〈省略〉

ル号物件目録

一 名称

屋根構造

二 構造の説明

(1) H型鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、

(2) 前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、

(3) アーチ型からなる屋根材6の両端部を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、

(4) このアーチ型からなる屋根材6を二列前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

三 図面の簡単な説明

第1図は、この屋根構造を実施した構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、組立状態を示す側面図。第3図は、中央部を省略した屋根材の取付部分を示す縦断面図。

符号の説明

1は前柱、2は前桁、2'は下フランジ、3は後柱、4は後桁、4'は下フランジ、5は左右桁、6はアーチ型からなる屋根材、9は雨樋、9'は取付材、11は長溝。

ル号図表

〈省略〉

ヲ号物件目録

一 名称

屋根構造

二 構造の説明

(1) H型鋼よりなる桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面の長手方向に溝形鋼よりなりフランジの片幅よりも幅広の雨樋9を設置して、

(2) 前記桁2、4の下フランジ2'、4'の内側上方に雨樋9の溝を設置し、この雨樋9はその始端が桁2のウェブに片持ち状に螺着され、

(3) 水平型からなる屋根材6の一端部を、始端が桁2、4の下フランジ2'、4'の内側内面に取り付けられた長手方向に短幅で幅方向にはフランジの片幅よりも幅広の取付材9'の遊端に、それぞれ固着し、

(4) この水平型からなる屋根材6を二列前記雨樋9の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

三 図面の簡単な説明

第1図は、この屋根構造を実施した構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、組立状態を示す側面図。第3図、第4図は、中央部を省略した屋根材の取付部分を示す縦断面図。

符号の説明

1は前柱、2は前桁、2'は下フランジ、3は後柱、4は後桁、4'は下フランジ、5は左右桁、6は水平型からなる屋根材、9は雨樋、9'は取付材、11は長溝。

ヲ号図表

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 平5-9365

〈51〉Int.Cl.3E 04 B 1/343 E 04 D 13/06 識別記号 U A 庁内整理番号 7121-2E 7416-2E〈24〉〈44〉公告 平成5年(1993)3月9日

〈54〉考案の名称 屋根構造

前置審査に係属中 〈21〉実願 昭59-92300 〈65〉公開 昭61-8202

〈22〉出願 昭59(1984)6月19日 〈43〉昭61(1986)1月18日

〈72〉考案者 吉谷巌 大阪府茨木市太田3丁目13番6号

〈71〉出願人 攝陽工業株式会社 大阪府大阪市北区西天満3丁目5番14号

〈74〉代理人 弁理士 辻本一義

審査官 青山敏

〈57〉実用新案登録請求の範囲

H形鋼よりなる桁の下フランジの内側内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、前記桁の下フランジの内側内面に長溝を形成し、さらに屋根材の一端を前記雨樋代用枠の側面上端に設けた支持部に取り付けると共にこの屋根材を前記長溝の上方に配したことを特徴とする屋根構造。

考案の詳細な説明

この考案は、自転車置場やパス停留所等の各種構築物の屋根構造に関するものである。

従来、これらの各種構築物の屋根構造では、軒先に雨樋を取り付けている。しかしながら、これらの小型構築物において通常の雨樋を取り付けることは、構築価格の高騰につながると共に、構築物の外観を損なうという難点があつた。

この考案は、上記従来例の難点を解消したものであり、その目的とするところは、桁の骨材としてH形鋼を使用し、その桁のフランジ内面の長手方向に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、桁に長溝を形成することにより、専用の雨樋を不要として、構築価格の低廉化及び構築物の外観の向上をはかつた屋根構造を提供することにある。

以下、この考案の構成を一実施例として示した図面に従つて説明する。

第1図は、この考案の屋根構造を実施したフラツト型の屋根を有する構築物を示している。この構築物の基本骨組は、すべてH形鋼を使用して前柱1、1、前桁2、後柱3、3、後桁4、左右桁5、5より構成され、前桁2と後桁4間に屋根材6が取り付けられている。前記H形鋼よりなる前桁2の上フランジ2'の内側内面の長手方向には、Z形鋼よりなる支持枠7がボルト・ナツト8で止着され、H形鋼よりなる後桁4の下フランジ4'の内側内面の長手方向には、側面上端に支持部9'を設けた溝形鋼よりなる雨樋代用枠9が溶着、あるいは密閉手段を施してビス止めする等して設置されており、前記屋根材6の前後端がこれら支持枠7、雨樋代用枠9にボルト・ナツト10、10により取り付けられている。そのため、前桁2の上端は支持枠7で遮蔽されることになり、後桁4の下端は長溝11が形成され、前記屋根材6がこの長溝11の上方に配されることになる。

尚、左右桁5、5間には角形鋼よりなる補強枠12を掛け渡し、左右桁5、5の下フランジ5'の内側内面へこの補強枠12の下端を溶着し、屋根材6をこの補強枠12の上端にボルト・ナット13で止着して補強することもできる。したがつて、前記屋根材6は、それ目体では強度の小さい塩化ビニル材、ガラス材、スレート材等が使用できる。

上述の様な構成を有するこの考案の屋根構造は、前桁2の上端が支持枠7で遮蔽されているため、雨天時の屋根材6と前桁2の間からの雨の吹き込みが防止され、又後桁4の下端には長溝11が形成されるので、この長溝11は雨樋の役目を果たす。

さらに、この考案の屋根構造は前述のフラツト型の屋根のみならず、各種の屋根に実施できるものである。例えば、第7図及び第8図に示した切妻型やアーチ型の屋根では、雨樋代用枠9の支持部9'の傾斜角度を第9図及び第10図に示したような適宜の角度にすればよい。

以上に述べた如く、この考案の屋根構造は、桁の骨材としてH形鋼を使用し、その桁の下フランジ内面に溝形鋼よりなる雨樋代用枠を設置して、桁に長溝を形成したため、専用の雨樋が不要となり、構築価格の低廉化をはかることができ、また長溝は桁の下端内面に形成され外観には現出しないので、軒先をシンブルなものにして意匠的にも優れたものとなり、さらに雨樋代用枠の支持体の傾斜角度を適宜の角度にすることにより、各種の屋根に実施することができるなど、優れた効果を有する。

図面の簡単な説明

第1図は、この考案の屋根構造を実施したフラット型の屋根を有する構築物の基本骨組の斜視図。第2図は、その構築物の平面図。第3図は、その構築物の正面図。第4図は、その構築物の側面図。第5図は、中央部を省略して示す第2図中のいA-A線による拡大断面図。第6図は、左右桁の中央に補強材を掛け渡した場合の中央部のみを示す第2図中のA-A線による拡大断面図。第7図は、この考案の屋根構造を実施した切妻型の屋根を有する構築物の基本骨組の斜視図。第8図は、この考案の屋根構造を実施したアーチ型の屋根を有する構築物の基本骨組の斜視図。第9図は、切妻型の屋根に実施した場合のこの考案の屋根構造の説明図。第10図は、アーチ型の屋根に実施した場合のこの考案の屋根構造の説明図。

2……前桁、4……後桁、4’……下フランジ、6……屋根材、9……雨樋代用枠、9’……支持部、11……長溝。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

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第4図

〈省略〉

第5図

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第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第8図

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第9図

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第10図

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実用新案公報

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